BUCK-TICK『愛のハレム』がモロッコ・マラケシュの迷宮へといざなう | 織田博子(オダヒロコ)ポートフォリオ oda Hiroko portfolios

BUCK-TICK『愛のハレム』がモロッコ・マラケシュの迷宮へといざなう

2023年7月23日に行われたライブで、櫻井敦司さんの(実質)最後のライブとなった『異空-IZORA-』。このライブを見られたことは、本当に幸せだった。

7月23日にはもちろんそんな未来を想像することはなかったけど、大好きな曲『愛のハレム』が演奏されたとき、これは夢じゃないかと思った。アルバム『異空 -IZORA-』を携えた全国ホールツアーなのだから『愛のハレム』が演奏されるのは当たり前なのだけど、あまりにも好きな曲だったので、数十秒経って「あっこれ脳内に流れてるのではなく、本当に今演奏されているんだ」って気づいたくらい、夢心地だった。

この曲はBUCK-TICKの曲の中で一番好きな曲。なので、この曲と歌詞の魅力を語りたいと思います。

モロッコの地名がちりばめられた歌詞

炎に濡れた
愛のハレム
この世は夢ね
愛のハレム

アラビアンな雰囲気のイントロと『ハレム(トルコ語:イスラム社会における女性の居室、ハーレム)』のワードで一気に異国に連れていかれるこの曲では、『corridor(コリドール・英:廊下)』『étranger(エトランジェル・仏:異国の者、見知らぬ者)』『麝香(ムスキー・英(?):麝香の香調)』『carnaval(カルナバル・仏語もしくはスペイン語、文脈的には仏語?:謝肉祭)と聞きなれない言葉が並ぶ。

(ただ、おそらくこの曲での『ハレム』は売春宿を指しているのではないかなぁと感じる。後述)

その後に出てくる『カサブランカ 南へ マラケシュに一人』というワードで、私はこの曲の中に吸い込まれた。
2010年にスペインから船でモロッコへ、タンジェという港町から南下してカサブランカを経由しマラケシュに向かった、そのルートと一緒だったから。

私はこの曲の途中、マラケシュの市場に立っていた。マラケシュに一人、聞こえてくるのは英語ではなくフランス語。言葉の通じない孤独の中にいた自分に戻っていた。曲の中に迷い込むような仕掛けを、歌詞の中に潜ませていた櫻井敦司さん。

「迷い込んだcorridor(廊下)」は、おそらくマラケシュのこのような道なのではないかなと思う。
迷宮のように張り巡らされた、強い太陽光を避けるための屋根付きのマラケシュの道。

そんな道を「わたし ただ étranger(異国の人、見知らぬ人)」として歩いていたら本当にいそうな気がする。「鏡の向こう側」から手招く「老婆」が。

鏡にしか映っていない老婆は幻想的で、「酔いしれて labyrinth(迷宮)」夢と現実の境界があいまいになってきているよう。鏡の向こうに迷い込んだら、今までいた「この世は夢」なのかもしれないと感じてくる。

カサブランカからマラケシュ、そして迷い込んだ迷宮の奥底の鏡の中に吸い込まれてしまったような気持ちで曲を聴いていると、突然愛のハレムは燃える。

愛のハレムを聞いて描いたファンアート

愛のハレム

「路地裏」「鏡の向こう側 老婆が手招く」「麝香」「楽園を知っているかい」というワードが想起させるのは、「王宮の奥にある、王のための愛妾たちの部屋」ではなく、「売春宿」。老婆は日本でいう遣手(やりて・妓楼で遊女などを監督する女。)もしくは女主人のように見える。性的な魅力を持つ麝香の香り、楽園というワードもそのような雰囲気を漂わせている。

そんな場所が突然炎に包まれる。鏡の奥に吸い込まれている私は、まるで世界がすべて終わっていってしまうような恐ろしさに包まれる。どちらの世界が夢だったのか、マラケシュの迷宮の奥の鏡の中なのか、外なのか。

『異空』のライブで演奏された『愛のハレム』

『異空』のツアー初参加だった私は、初めてライブで『愛のハレム』を聞くことができて、「あっ今死んでも悔いない」と思ったくらい感動した。この曲の前の曲をすべて忘れてしまったくらい、この曲を聴けたことが衝撃だった。

DVDで改めて見て、あまりの美しさにまた息が止まった。櫻井さんは頭にヴェールを巻き、前の曲とは見た目が変わっている。イスラム教の女性がつけるヒジャブのようで、その女性的な怪しい雰囲気がとても美しかった。小さなどらのような楽器をチリンと鳴らしているのも、幻想的。

ヒジャブをつけるマネキン(カザフスタン)

派手ではないけど浮遊感のある今井さんの動きがまたこの曲にあっている。そして星野さんの白い衣装とくるくる回る様子は、スーフィズムの儀式のようでさらに美しい…。

スーフィズム

サハラ砂漠やモロッコ風ランプ、イスラム風の金細工の映像がまたアラビアンな雰囲気を高めていました。

私にとって、イスラム世界への扉だったBUCK-TICK

私が高校1年生の時に9.11が起こり、その年に発売されたBUCK-TICKのシングルが『21th cherry bomb』から『21th cherry boy』に変更され、その後発売されたアルバム『極東I love you』では『謝肉祭ーカーニバルー』というアラビアンな雰囲気のある曲があった。

私が一番好きだったのは『謝肉祭』だったので、この異国情緒あふれる曲と、櫻井さんや今井さんの9.11への言及から、イスラムの世界というものに興味を持つようになった。

オフィシャルの動画がない…