映画「ツーリスト•ファミリー」インド版「ALWAYS 三丁目の夕日」人と人の繋がりのあたたかさ、あいまいなまま残しておく豊かさ | 織田博子(オダヒロコ)ポートフォリオ oda Hiroko portfolios

映画「ツーリスト•ファミリー」インド版「ALWAYS 三丁目の夕日」人と人の繋がりのあたたかさ、あいまいなまま残しておく豊かさ

※ネタバレありません

低予算映画ながらも口コミで人気を集め、「RRR」のラージャマウリ監督がコメントを寄せたと前評判が高い「ツーリストファミリー」初日に見てきました。開始3分で「あっ、これめちゃいい映画だ」となってから、映画館でしゃくりあげるほど泣きました。この映画を語らいたいと思い、帰りの電車でしたためています。

インド版「ALWAYS 三丁目の夕日」人と人の繋がりのあたたかさ、どうしようもないおかしさ

分断を煽る言説が続く選挙戦の真っ只中で、この映画を見られたことが幸せでした。キャッチフレーズは「国と国より、人と人」。難民の家族が繋ぐ、人間同士の心の交流を描いたコメディ作品。

見ている間ずっとどこか懐かしさを感じていたのは、昭和の映画みたいな雰囲気があるからかも。「隣近所は干渉してこない」都会のチェンナイ。住み始めたスリランカ家族の行動で、近所の人たちが交流し始める。「ALWAYS 三丁目の夕日」みたいだな、と思ってみてました。

濃厚な南インド映画が凝縮しながら、描かれているのは普遍的な隣人愛。根底に流れる、人間への愛情あふれる監督の眼差しや役者たちの人間臭い演技が素晴らしかった!
国を超えた人類愛の名作「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(こちらも配給会社はSPACE BOXさん、素晴らしい作品をありがとう…)に並ぶくらい好きな作品となりました。

概要

国が破産したスリランカから、船でインドに不法入国した家族の話。最初からシビアすぎる設定だけど、コミカルなタッチで話が進みます。

人の良さそうな主人公•ダースと美しい妻のワシャンティ、反抗期気味の息子、如才ない小学生の息子、かわいい犬。それに亡命を手助けする妻の兄(ヨーギバーブ)。家族がゴタゴタしながらもとても仲が良くて、明るくて、話がカラッとしてます。

隣近所と交流する中で、スリランカ人であることを隠しているのでいろんなゴタゴタが起きていきます。

感想

義兄が「家族なんだから遠慮するなよ」と家を探したり家具を揃えたり優しすぎて涙が出る…。彼にも辛い過去があったのだろうなぁ。「隣近所と交流のない都会」として描かれているけど、通りすがりの近所の人が引っ越し当日に訪ねて来たり、学校に行く息子が知らない人のバイクに便乗したり、やっぱり感じるインドの人の距離感の近さ。

スリランカから来たばかりの家族がたどたどしいながらもインド人と話ができるのは、同じタミル語で話しているから。この映画の日本語字幕の秀逸なところは、同じタミル語ながらも微妙な方言の違いを感じさせる手段として「古風な日本語」を採用している点でした。大まかにはわかるんだけど、古風な言い回し(「言う」が「語らう」になるなど)をするスリランカの家族。このおかげでグッとイメージしやすくなっています。日本と韓国の関係(そもそも言語が違う)でイメージするとわかりづらかったんだけど、韓国と北朝鮮の関係だと思うと近いのかな?

義兄は「隣近所と交流するな、スリランカ人だとばれたらやばいことになる」と言っているけど、人懐こいスリランカ家族はドシドシ隣近所と交流していく。でもスリランカ人であることを秘密にしているので、そこにコミカルさが出てくる。

このスリランカ家族、亡命してきて頼る人が少ないせいか、それとも天性のものか、人を見る目がめちゃくちゃある。ちょっとしたしぐさから家族構成を推測したり、信頼置けない人の何気ない一言で全幅の信頼を寄せたり。おそらく後者なんだと思います。いい人を見抜き、その人に自分を預けることができる強さを持った人たち。だからこそ海を越えて自分たちの人生を取り戻そうとできたのかもしれない。

映画全体にも監督の人間観察の鋭さがよく出ていて、言葉では語られない細部の描き方が素晴らしかった。磨き上げられた車でまじめな性格を描き、割れた瓶で荒廃して孤独な人格を描き、誕生日ケーキの渡し方で妻への愛情を描き。映画というものの力を感じさせる映像ばかりでした。監督25歳ってまじかよ。人生何回目?

町の人たちをつなぐきっかけとなるある葬式のシーンでは、もう本当に泣きっぱなし。映画ではあまり泣かないし、今まで泣いたのは「バジュランギ~」はじめ数本なんだけど、このシーンはもうボロ泣き。自分の琴線をかき鳴らすシーンの連続でした。あの時の主人公の行動に、タミルの人々の魂を感じた。異国で輝くタミルの魂。アツい。

ところで、あの亡くなった方は、もしかしてスリランカの人だったのかな、と思ったりしたんですけどどうでしょう。最初のシーンでうっすら思って、家族とのなれそめを聞いてそうなのかなと思って、家族の最後のセリフで自分なりに確信したんだけど、全然見当違いかもしれません。この文章を読んだ方はどう感じたか気になります。

住んでいる町の人と仲良くなり、それぞれの家庭と濃密な付き合いを始めると、幸せそうに見えた他の家族にもいろいろな問題があり、その厄介ごとが持ち込まれたり、闇を垣間見たりする。それぞれに問題があり、その問題を町全体でうっすらと共有している。その問題を解決したり、解決しないでそのまま置いておいたりする。そのかかわりのあり方は見習いたいなと思います。

町の鼻つまみ者だった青年が、自分の抱えていた問題を語るシーンでは、都会の人間関係の希薄さが浮き彫りになります。でもこの監督は、それを非難していない。その希薄さの中で、少しだけ踏み込んでくれた主人公の何気ない言葉で救われたことを描いている。単純な構造に落とし込まないところにこの映画の白眉があります。単純な構造は、わかりやすく伝わりやすいけど、分断を生みやすくなる。この映画は、あいまいなままで受け入れる余白を持っていました。それこそが人生を豊かにしてくれると伝えてくれます。

この映画での悪役は警部。おそらく北から来た人で、ときどきヒンディー語?が混ざります。ちょっと南の人、特にタミルの人をバカにしている感じです。同じく北出身と思われるシーク教徒(ターバンを巻いている人たち)になれなれしく話しかけてタミル人への愚痴を話すシーンがあります。あと、主人公たちに共感を感じる警察官の目がとてもきれいです。

あまり語られてないけどシーク教徒の人がふつーにいるのがとても好きでした。すんなりなじんでいる。

反抗期気味(って年齢でもないか)のお兄ちゃんと、抜け目ない弟、結構自分勝手なお父さんなので、ぶつかり合い、傷つけあう家族。でも対話を続け、わかりあう。悲しい心を癒してくれるのもまた家族。ダンスシーンがとてもいいです。2010年代の南インド風のボリウッド映画「ダバング 大胆不敵」が好きなんだけど、そのダンスの源流ってやっぱりタミルなんだよなあ、と感じました。あと、他人がいる前でも全力でケンカし続ける家族がなかなかシュールでした。第三者がいることで、シリアスなシーンもどこか滑稽にしてしまう監督のセンスが素晴らしいです。

敵をバッタバッタとなぎ倒すマッチョなヒーローがいるインド映画が大好き。でもこの映画では、そんなシーンはない。相手への優しいまなざしと相手への想像力、行動力によって、知らず知らずのうちに一人ひとりの心をつかんでいく。この映画は、新しいタイプのヒーロー像を描いているのかもしれません。そのヒーローは、私の近所の花壇の手入れをしてくれる地域の方や、商店街で野菜を売るおじさんや、公園で小さな子どもに手を差し伸べる小学生や、もしかしたら私も、少しずついるのかもしれない。そんな人間賛歌でもある作品だなと思いました。

見てからすぐ書き連ねているので、めちゃくちゃな文章ですね。それでもこの今の気持ちを書いておきたいと思いました。

ヨーギ・バーブさんが大好き(雑談)

「肥えてる親戚」ヨーギバーブさん目当てで行きました。主演の映画は「マンデラ」しか見てないけど、映画にちょっとでも出てくると嬉しい気持ちになる存在。それがヨーギ・バーブさん。独特のアフロヘア(このアフロヘアが大きいほどコメディ要素が強く、小さいほどシリアスな映画。今回はポニーテールでした)とたっぷりした見た目ですが、何気に超イケメンだと思う。

ヨーギ・バーブさんをモデルにしたイラストレーション

コメディ俳優としてさすがの台詞回しと間の取り方で、なんでもないシーンでも笑わされっぱなし。「俺は犬か?」のシーンが最高によかった。芸人さんって、間の取り方がやはりプロだなと思う。ボケの人のセリフを受け、見ている人がそのセリフを咀嚼した、その絶妙なタイミングで一言でツッコむ。この映画はやはりこの人の存在でギュッと引き締まっている。

「マンデラ」では政治に翻弄される床屋として主役をされていました。この方はどこかおとぎ話の登場人物のような雰囲気(見た目だけではなく、ふるまいも)があります。人間のエグみが抜けて、滑稽さ、いとおしさが出て来るよ言うか。Xでフォローしていますが、一切言葉を書かずに写真のみアップするという姿勢を貫いています。こんな個性的な見た目だけど、自分という存在を消し去るタイプの俳優さんなのかなと思っています。逆説的だけど、だからこそヨーギ・バーブさんの個性が際立つ気もする。