目次
ユーラシアの25か国を旅した、というと
「どこの国が好きですか?」
と聞かれる。
どの国も素晴らしく、好きなところがいっぱいあるんだけど
強いて3つをあげるなら「ロシア、ドイツ、バングラデシュ」。
特に、ドイツ、バングラデシュは小さい頃からの憧れが強く、行ってみてさらに好きになった国。
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肥沃な土地で農業や繊維業が盛んながら、世界最貧国の一つ。
2010年に私が行ったとき、タクシーの初乗り料金は5タカ(5円)だった。
ベンガル最大の詩人、ラビンドラナート・タゴールが「黄金のベンガル」とたたえる美しい土地。
わたしの黄金のベンガルよ、
わたしはあなたが好きでたまりません。
あなたの空、あなたの風は、
わたしの胸の中にある笛をいつも鳴らしてくれます。
ああ、お母さん、早春の
あなたのマンゴー林が放つ香は
わたしの魂を夢中にさせてしまいます。
ああ、お母さん、
わたしは死ぬほど幸福です。
去年末にラジオに出演した際、DJのRIKOmaniaさんに
「ドイツは分かるけど、なぜバングラデシュ?」
と聞かれた。
きっかけは一本のゲーム「フロントミッション2」。
2102年のバングラデシュを舞台にしたゲーム「フロントミッション2」
当時中学2年生だった私がめちゃくちゃハマったゲーム「フロントミッション2」(スクウェア、1997年)。
STORY
2102年、貧困に喘ぐO.C.U.アロルデシュ人民共和国(今のバングラデシュ)で、祖国の将来を憂えたアロルデシュ軍兵士がクーデターを起こす。革命軍は次々と政府関係施設や軍設備を制圧。「何が正しく、何が間違っているのか?」。海防軍所属のアッシュ、OCU所属のリーザ、愛国者で商人のサリバシュなど、さまざまな立場の主人公たちが織り成す戦場ドラマ。
前作「フロントミッション」「ガンハザード」も好きだったんだけど、この悲壮感漂う世界観が気になって中学1年生の時に手を出したのが、
私の人生を大きく変えていった。
キャラクターデザインは天野義孝から末弥純へ。
当時、すえみじゅん、と読めないほどには知らないイラストレーターさんだったけど、
この陰鬱な世界観に見事にハマる、繊細でけだるい雰囲気を出していて一瞬で恋に落ちた。
「バングラデシュにいるいる、こういう人…!」
末弥先生は現地で取材されたのか?と思うほど、ベンガル人(他の人種も)の表情・身体的特徴をよくとらえている。
リラちゃんというベンガルの黒髪美人がいるんだけど、日本人の髪質とは異なるツヤと髪の流れが丁寧に描かれている。
それぞれに生まれた国と人生があり、生き様があるのがにじみ出ている。
特に、年を取った人の美しさといったらない!
私がおじちゃんを描くきっかけになったのも、末弥先生のおじちゃんたちのあまりの美しさに影響されている。
「バングラデシュ政府からクレームが来た」というほどリアルすぎる未来
「アジア経済連合ができ、その一部として搾取され貧しくなり、自国民のクーデターが起こる」という、あまりにもリアルすぎる設定にバングラデシュ政府からクレームが来た、という逸話があるこのゲーム。
シナリオもキャラクターもとにかく暗い。希望がない。みんな目に光がない。
90年代後半といえば「エヴァンゲリオン」「ファイナルファンタジー7」など、暗くてウジウジしたキャラクターが全盛期だった記憶があるので
その流れもあるかもしれないけど、世界観が救いようがないのでとにかく暗い印象。
戦闘中に描かれる荒廃した首都や、湿った土を踏みしめるジャングルの夕日や、うらぶれた街の酒場…。
キャラクターだけでなく風景や音楽も、八方塞がりなこの国の雰囲気を描いていてとてもよかった。
(関係ないけどバングラデシュの街の名前(「ダッカ」「チッタゴン」「クミッラ」など)って、すごく硬質で乾いたかっこいい響きだと思ってる)
絶賛厨二病で「EDEN」(アフタヌーン)とか愛読していた私は、とにかくこの暗い暗い世界観にどっぷりとハマってしまった。
好きなキャラがホモだったと知った衝撃
ちなみに大好きだったのは、東南アジアとオーストラリアのハーフの長身イケメン、ロッキーさん。
めちゃくちゃモテるけど女性には興味がないという設定も好きだったけど、
死を意識した戦闘の前に主人公・アッシュに愛の告白をするという
ゲーム史上初めて公式にホモ設定となったロッキーさん…
追記;イギリスのLGBT情報サイト「LGBTQ Video Game Archive」にロッキーさんのことが載っていた
いろんな意味でネタキャラになってしまった彼だったけど、後述する理由のために私はその事実をずっと知らなかった。
純朴な田舎青年の主人公・アッシュも好き。
オーストラリア人トマスは、豪快に笑うテキトーなおじちゃん。ビジュアルはジェントルマンだけど、中身はおっさん。そのギャップが大好き。
クーデターの首謀者、ヴェンも好き。ベンガル人のエリートっぽい雰囲気なんだけど、若さゆえに勢いや青臭さが感じられて共感できる。
絶望に満ちたこのゲーム内で一番人間味があり、悪役として描かれるけど味わいのあるキャラクター。
彼が死に際に言う「オ・マキ・ションダロ・アロルデシュ」っていうセリフ、ずーっと意味を知りたくて、でも当時インターネットには答えが見つからず。
バングラデシュに言って日本語が話せるモインさんに、「”オ・マキ・ションダロ・バングラデシュ”ってどういう意味?」と聞いたら
「ああ、美しいバングラデシュ、という意味」と知った時の感動は忘れられない。10年越しの疑問が解けた。
※ちなみにアロルデシュはベンガル語で「光の国」という意味。
ヴェンのセリフは、ゲームの最初で登場する詩の一部(2022/2/21追記)
「オ・マキ・ションダロ・アロルデシュ(正しくは オマ・キ・ションダロ・アロルデシュ)」は、ニューゲームでプレイした際に出てくる、タゴールを思わせる架空の詩人の詩の冒頭部分「ああ 母よ 美しき光の国よ」(ホルデデニム=バニヤン「光」2030年作)なのかも。
このことをTwitterでつぶやいたところ、詳しい方が翻訳してくださいました。
突然失礼します。このゲームは存じ上げないのですが、そのブログを見た限りだとまさにその画像の詞の冒頭と同じだと思います。
— 老練狂アメモジイチ (@PurboMatha) February 21, 2022
ও মা, কি সুন্দর আলোর দেশ
o ma, ki shundor alor desh
って感じですね。
普通にプレイしてると絶対クリアできない難関ゲーム
シミュレーションRPGというジャンルに属するこのゲーム。
戦闘は通常のシミュレーションシーンの他、敵味方が衝突するとムービーシーン(操作不能)に切り替わり、重厚なヴァンツァー(戦闘機)のリアルな戦いが見られる。
ムービーシーンはローディングに鬼のような時間がかかることと、スキップができないので周りでは絶不評だった。
でも私はこのムービーシーンが気に入っていて、特に前述した、戦闘中の風景を見ているのが大好きだった。
(ローディング時は部屋の片づけとかをしていた)
あと、敵はただ倒すだけではなく、腕や足を破壊して経験値を稼いでから倒さないといけない。
体を破壊するとすぐに死んじゃって、経験値が足りなくなってしまう。
どこを攻撃するかは、操作不能のため確率論なんだけど、腕を攻撃するスキルをつけたりしてなんとかする。
戦闘にすさまじい時間がかかるうえ、普通にクリアしていくと途中で経験値不足で詰んで先に進めなくなるという、鬼仕様。
頭の悪い中2の私は、このシミュレーションシステムに慣れるのにも時間がかかったし、
何度も詰んでイチからやり直していたので(今考えると、ヒマだったんだな…)
このゲームをクリアするのに2年(!)くらいかかってしまった。
そんなわけで、1年9か月くらいは最愛のキャラ・ロッキーさんの告白イベントも知らなかったし
思春期の2年間をベンガル人をずっと見て過ごしていたので、
私の青春時代といえばバングラデシュ一色になってしまった。
そのため、今でも私の一番好みのタイプは東南アジア系だし、ボリウッド(インド)映画に夢中になったりしている。
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憧れを胸にバングラデシュへ
2010年11月、私はインドのコルカタからバングラデシュのダッカへと飛び立った。
10年間あこがれ続けたバングラデシュの地を踏むことに、喜びと不安を抱えつつ。
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ダッカ空港に到着して、街に出ると、周りはベンガル人だらけ。
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ベンガル人はインド人よりも慎み深く、いきなり取り囲まれることはないけど
外国人女性(私)が一人でいるのを遠目にチラチラ見ている。
湖や川が多いため、むわっとした湿気が体を覆う。
広い空に夕日が沈み、ヤシや建物がシルエットになっていく。
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うわー!フロントミッション2そのままの世界だー!
街ゆくベンガル人たちの褐色の肌や雑踏の独特の雰囲気、立ち上る湯気、すべてがイメージ通り。
でも一つだけ大きく違ったことがあった。
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街ゆく人は痩せて貧相な服を着ているけど、目がキラキラして、希望に満ち溢れている。
貧しい国だけど、これから発展していく国特有の勢いや、若さがある。
目が合うと照れながらも笑顔を返してくれて、その笑顔がとても美しい。
クミッラの田舎にホームステイした話
特に印象に残ったエピソードを一つ。
セント・マーティン島という、ハネムーンで人気の島に行く船に乗るために待っていたら
日本語で「日本人ですか?」と話しかけられた。
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話しかけてくれたのは、普段は日本で働いていて、今は結婚のために帰国しているというモインさん。
新妻のムンニさんとハネムーンのためにセント・マーティン島に来たとか。
セント・マーティン島での滞在を終えた後、モインさんが
「これから妻と、実家のあるクミッラ郊外に帰るけど、興味があったら一緒に来ますか?」
と誘ってくれた。
女性一人旅で、現地の人の誘いに気軽に乗るのは危ないことだとは知っていたけど
この人は新婚旅行中だろうし、大丈夫かなと思って誘いに乗った。
屋根もない田舎の駅に電車が到着し、そこからタクシーで小さな村へ。
村中の歓迎(外国人が来たのは初めてだそうだ)を受けて、数日間モインさんの家に滞在。
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その間、湖の水を全部抜いて魚を採ったり、バングラデシュの嫁修行をしたり、
すごく貴重な体験をさせてもらった。
モインさんのお母さんが特に私を気に入り、鶏を絞めてチキンカレーを作ってくれたりした。
ある夜、村中が停電になって真っ暗な夜に、もう早く寝ようと思ってベッドに行った。
モインさんのお母さんが蚊帳を吊ってくれていて、ベンガル語で何か言った。
私がベッドに横になると、お母さんは私に布団をかけ、ぽんぽんとおなかをたたきながら子守唄を歌ってくれた。
異国の地で、真っ暗で不安だと思ったのかもしれない。
にしても、私、26歳なんだけど…。
でも、お母さんはずーっと歌を歌ってくれた。
降るような星空を眺めながら、なぜか涙が止まらなかった。
「なぜバングラデシュが好きなのか?」
きっかけが「フロントミッション2」というゲームだったので、ゲームにすごく詳しい人にしか言ったことがなかったこの理由。
理由は
- 「フロントミッション2」のおかげで、青春時代をバングラデシュにどっぷりで過ごしたから
- 実際に行ってみて、風景や人の美しさ、ごはんのおいしさを実感したから
「フロントミッション2」は人生を変えてくれたゲームだったなあ、と、「なぜ、バングラデシュが好きなの?」という質問で思い出して
この記事を書きました。
次回は、もう一つの大好きなゲーム「ファイナルファンタジー12」のことを書こうと思います。