世界を旅してきた筆者のインド旅行の様子を、おすすめ本と一緒に紹介していただきます。本を通じて新しい世界が見えてくる!
「インドに誘ってくれた本たち」 食を旅するイラストレーター/マンガ家 織田 博子(おだ ひろこ)
コロナ禍、円安、クーデターに戦争と、海外旅行をできない理由だらけだった2020年代前半。そんな中で、「2024年11月に、女一人旅でインドに行ってきました」。はたから見ると、「よっぽど勇気のある人なんだろう」と思われることの多い私だけど、ンドへの航空券を取得した時から飛行機が飛び立つ瞬間まで「怖い、もうやめたい」と思っていた。でも飛行機は飛び立った。そしてインドに着き、旅し、無事に帰国した。今の自分は、越えられないと思っていた山の向こうにいるように思う。
本を読む、ということは、この山を越えていくことに似ている気がする。最初のページをめくる前の自分が、山を登り、頂上に達し、山を下り、最後のページを閉じる自分になる。この短い本の旅の中で、見たことがなかった景色や、自分が知らなかった知識と出会い、ちょっと違った自分になっている。
「合う人と合わない人がいる」と言われるインドへの扉を開いてくれた本は、『河童が覗いたインド』(妹尾河童)。精緻なイラストとエッセイで構成されたページをめくるたび、インドを旅するような気持ちになった。生と死、浄と不浄がごったがえす聖地バラーナシーや、湖の真ん中に宮殿があるジャイプール……インドに魅了された。
そして20年前初めてのインド訪問。人が一人通れるような狭い路地を歩くと、牛とかち合う。バラーナシーのベンガリー・トラにあるほこりっぽいカフェの本棚に刺してあった日本語の本『アジアン・ジャパニーズ』(小林紀晴・90年代のバックパッカーの写真とエッセイ集)の中に「この世界にインドがあってよかった」という言葉があって、そっと心の中にしまった。
そして今回は5回目の訪問。河童さんの時代から変わらない風景も、ニョキニョキ生えてくるようなタワーマンションなどの新しいものもごった煮で、途方もないカオスを抱えるインド。それでも日々をパワフルに生きていく人々に魅了され続けている。
多様なインドを表す最近の作品として『インドの台所』(小林真樹)『南インド キッチンの旅』(齋藤名穂)もおすすめしたい。「ターバンを巻いた人がカレーを食べている」だけではなく、「お手伝いさんに故郷の味を作らせるお金持ち」や「牛を食べるキリスト教徒」や「魚売りのおばちゃんの昼ごはん」など、今のインドを台所から垣間見ることができる。
新しい自分や世界に出会えるという意味で、本と旅はよく似ている。
図書館通信が17年の歴史を閉じられる、その最後の号に記事を掲載させていただくという名誉な機会をいただきありがとうございました。形は変わっても、図書館通信は本の旅へいざなってくれることでしょう。
プロフィール
駒込在住。現地の空気感あふれるイラストやマンガが特徴。世界のおばちゃんやおじちゃん、家庭料理を描いています。著作『世界のおじちゃん画集』(しろいぶた書房)、『世界家庭料理の旅 おかわり』(イースト・プレス)など多数